オグラ(ex800ランプ)/忌野清志郎さんの話
>1996年頃一度だけ、忌野清志郎さんにお目にかかったことがある。

 僕は『およそ200g』というCDを出したばかりだった。レコード会社の社長Jさんにつれられ下北沢の店で呑んでいた。そこへスタジオ帰りの忌野さんが他のメンバーと入ってきた。Jさんはあいさつしてテーブルをくっつけた。端へ逃げようとすると「お前ここ座れ」と、まるで仲人のように僕を横に座らせた。何を話せばいいのかわからず「800ランプというバンドをやってます、オグラといいます」というと「お、800ランプ……イヤイヤ、お噂はかねがね」と切れ味のいいジョークで緊張をほぐしてくれた。

 そわそわしてるのが手にとるようにわかるJさんであったが、タイミングを見計らって『およそ200g』を店内でかけた。そして「清志郎さん、これこいつの歌です。どうですか?」と余計な事をいう。内心ヤイヤイと思ったが、4曲目を「これも君の? これ、いいじゃないですか」とホメてくれた。

 自分のような無名ミュージシャンにも優しく接してくれるので、調子にのりもうちょっと話してみた。ライブハウスで歌っている声とレコーディングした自分の声に、いつまでも違和感があるというと、色んなマイクを試すことをアドバイスしてくれた。自分にあったものを研究すると面白いといい、屋外用の長いマイクも結構いいよといっていた。

 当時、一緒に暮らしていた彼女はRCサクセションが大好きだった。レコードはもちろん全部持っていて、ラジオをエアチェックしたカセットテープもたくさんあった。僕は夜中のバイト中、そのテープばかり聴いていた時期がある。中でもオールナイトニッポンにRCがライブ出演したテープが秀逸だった。客が恐ろしく盛り上がっている途中、司会のTさんが「このもようは第二部で引き続き放送します。地方のみなさんスイマセン」みたいな事を伝えた。彼女は地方出身なのでここで終わりかと思ったが、なんとそのテープには東京のニッポン放送をキャッチしようとするシュワシュワした音が入っていた。そして、ノイズの向こう、とぎれとぎれに聞こえる第二部がそのまま録音されていたのだ。

 僕がRCを知ったのは中学生の頃だが、本当のよさは彼女の内部を通して教えられたような気がする。また、RCを好きな女はみんな『わかってるイイ女』に思えた。

 そんなことを考えながら、酒も入りリラックスした僕は、おもいきってそのテープのことを話してみた。すると「そ、それは非常にいい話だね……」といってくれた。家に帰り彼女にそれを伝えると「え〜? そんな事まで言ったの〜」といいながら死ぬほど喜んでいた。

 後年、自宅録音を始めた僕は、有り金を持ってヨドバシカメラへ行った。店員が「何かお探しですか?」と聞くので「できるだけ長いマイク下さい」といった。

 ……それにしても、たったひとりの死で、この国から正しい大人がひとりもいなくなってしまったような淋しさ。

 しかし、死に意味や物語をつけてはいけないのかもしれない。音楽の中に確かに存在しているのだから。数々の発明、シンプルな問いかけ、イントネーションを大切にする作曲法、痛快なユーモア。僕はシンプルな問いに答えられるだろうか? センチメンタルな自分ではあるが、簡単に感傷にひたってはいけないと思った。
 ただ、ご冥福をお祈りするより、平和を祈るより、行動する事が大切なんだと思う。

http://www.lilyfranky.com/reg02/2009/05/vol84_1.html
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by POP_ID | 2009-06-12 03:56 | '00sあたり | Trackback | Comments(0)
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